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徳島地方裁判所 昭和46年(ヨ)78号 決定

申請人

赤穂賢治

代理人

小出博己

被申請人

吉成茂夫

主文

一、申請人が別紙図面記載(1)、(2)、(4)、(3)、(1)の各点を順次連結した線で囲まれる部分の土地につき、賃貸人を被申請人とする賃借権を有することを仮りに定める。

二、申請人のその余の申請部分を却下する。

三、申請費用はこれを二分し、その一を申請人の、その余を被申請人の各負担とする。

理由

第一、申請人の申請の趣旨および理由

一、申請の趣旨

申請人が別紙物件目録記載の土地につき賃貸人を被申請人とする賃借権を有することを仮りに定める。

二、申請の理由

(一)  被保全権利

申請人の祖父訴外亡赤穂虎吉は昭和一二年五月六日被申請人の父訴外亡吉成岩三郎から別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)を建物所有の目的で賃借した。右虎吉は昭和一八年七月六日死亡し、相続により右賃借権を承継した申請人の父訴外亡赤穂政男もまた昭和二一年八月一四日死亡し、ここに申請人が右政男から相続により右賃借権を取得した。しかして、申請人は右賃借期間(三〇年)満了直後である昭和四二年五月一一日右賃貸人吉成岩三郎の相続人である被申請人に対し賃貸借契約の更新を請求したから、申請人は現在もなお本件土地につき前契約と同一の条件の賃借権を有するものである。

(二)  保全の必要性

しかるに、被申請人はその後何ら正当事由がないにもかかわらず賃借期間満了を理由に本件地上の申請人所有建物の収去、本件土地の明渡しを求めて鳴門簡易裁判所に訴を提起した(鳴門簡易裁判所昭和四二年(ハ)第二二号事件)。ところが、右事件の係属中、鳴門市において土地区画整理事業が施行され、昭和四三年一月二四日本件土地はすべて仮換地指定を受け、その頃その効力が発生した。従つて、申請人としては、土地区画整理法八五条一項に基づき賃貸人(徒前地所有者)である被申請人の連署を得て右事業施行者に対し申請人が使用収益しうべき部分の指定をうけるための権利申告をなす必要に迫られ、右指定がなければ、如何に従前地に賃借権があつても、その仮換地先の使用収益ができないことになつた。

しかるに、被申請人はことさら前記連署を拒み、よつて、申請人は前記訴訟で敗訴の判決を受け(請求原因は仮換地先の権利関係に変更された)やむなく控訴し現在当庁昭和四四年(レ)第三七号事件として係属中である。しかし右指定がないかぎり本件土地(従前地)の賃借権の存否に関係なく、申請人敗訴となることは明らかで、その結果、建物収去土地明渡しの憂目に遭うこと必定である(なお、本件仮換地は一部現地仮換地先に移築されるに至つている)。

そこで、申請人は別途前記法条所定の賃借権を証する書面を得るため、申請人が本件土地の賃借権を有することの確認を求めて、徳島地方裁判所に訴を提起したが(徳島地方裁判所昭和四五年(ワ)第二八〇号。施行者はその確定判決があれば申請人の権利申告に応ずる、と言つている)、前記控訴事件のなりゆき上、右賃借権確認訴訟の勝訴判決確定より先に申請人敗訴判決確定の公算が大である。

従つて、申請人としては右賃借権確認の確定判決取得前に取り敢えずその仮りの地位を定める仮処分を得、その決定を添付して前記権利申告をなし、仮りに権利の目的たるべき部分の指定を受け、その使用收益を全うする必要がある。

(三)  結論

よつて、申請人は仮りに本件土地(従前地)につき申請人が被申請人を賃貸人とする賃借権を有するとの地位を定める裁判を求める。

第二、当裁判所の判断

申請人提出の疏明資料ならびに申請人審尋の結果によれば、申請人の主張事実が一応疏明せられる。しかし、他方、右疏明万法によれば、被申請人は昭和四一年四月二九日自己の停年退職(税務署)が迫つたことによる老後の対策や、子女の養育等のため本件土地を使用する必要が生じたことを理由として本件賃貸借契約解除の予告をし、右期間満了と同時に契約更新拒絶の意思表示をしたことも疏明せられる(琉甲第一一号証参照)。従つて、申請人の本件従前地に対する賃借権の存否は右更新拒絶にさいしての正当事由の存否にかかる。

そこで按ずるに、被申請人の自己使用の必要性もさることながら、同人の場合はともかくも本件土地の南側にほぼ本件土地と同じ面積の屋敷を所有占有しているのに対し、申請人は従来から本件地上建物に居住し、ここを生活の本拠として永年暮らしてきたもので、他に特段の資産もなく、ボイラーマンとして月収五万円余で一家の生計をたてている身であり、本件土地(ひいてはその仮換地先)使用の必要性は生活上不可欠といえることが前掲疏明方法によつて疏明せられ、原則として被控訴人の前記正当事由は未だこれを容認し難いことが一応判断できる。

しかして、申請人の本仮処分の必要性の存否についても、前掲疏明方法によれば、その主張にかかる必要性を事実上法律上の両面においてほぼそのまま肯認することができる。但し、必要土地の範囲を慢然従前地全体(実測ほぼ1,304.04平方米にも及ぶ)とすることはいささか広きに失し(本件仮処分が仮りの地位を定めるものである点参照。また、被保全権利そのものの存否についても、果して全城について被申請人の前記正当事由が欠けていると速断できるかどうか、これも本案訴訟において証明によつて明らかにされるべき事柄である)、結局、本件仮処分によつて申請人に賃借人としての仮りの地位を許容すべき従前地の範囲は、差し当り、同人の生活上是非とも必要なその所有建物敷地とその周辺部で、すなわち別紙図面記載(1)(2)(4)(3)(1)の範囲と認めるのが相当である(なお、申請人所有建物は、一二番の四地上の木造瓦葺平家居宅とその西一二番の二地上にそれぞれ間を置いて木造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建物置二棟があるのみで他の土地は畑あるいはかつての建物が崩壊した後の空地であつた。そして、これらの建物は、各建物間の空地がせばまつてはいるがほぼ従来の形で、昭和四六年三月三一日施行者によつて事実上本件土地の仮換地上の一部に移築されている。従つて、申請人は事実状態としては既に仮換地先の一部すなわち自己の建物の敷地とその周辺部分を確保しているのであり、同人は本件仮処分によつていわば右仮換地先一部の使用権限を暫定的に正当化してもらえれば差し当りの心配はなくなるわけで、前記仮処分許容の範囲も一応これに対応して定めたものでもある)。

よつて、申請人の本件申立てにかかる賃借権者としての仮りの地位は別紙図面記載(1)、(2)、(4)、(3)、(1)の各点を順次連結した部分に限りこれを認めるのが相当であるからこれを認容し、その余の部分についてはその疏明を欠き、かつ疏明に代る保証をたてさせて認容するのも事案に照らし相当でないのでこれを却下し、申請費用につき民訴法九二条を準用して主文のとおり決定する。

(畑郁夫 葛原忠知 岩谷憲一)

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